2008年3月25日火曜日

ヘーゲル 其の五

「有用性」の思想は、人間の存在意味に決定的な変革を与える。人間はそれまで「被造物」であり、つねにより上位のものに属する何者かであった。人間の本質は「彼が何に属しているか」によって決定されるものだった。つまり「信仰」や「出自」や「身分」がその人の本質であった。

しかし市民社会での社会関係は人間の価値規定を決定的に変化させる。新しい社会では、人間の価値は、一般的に言って、彼が「何であるか」(何に属しているか)ではなく、「何になるか」(どれほど有用な存在になるか)で決まる。

そしてまさしく、この社会と価値の変化が、人々の「自由」の自覚をいっそう育て上げていく。 このような流れがひとたび始まると、人々の「自由」の解放に歯止めをかけようとする一切の既成の権威と思想は、人間の本質的な自由の発現を阻むものとして激しく指弾される。

逆に、旧守勢力はあらゆる手段を用いて新しい危険思想を抑え込もうとするが、いったん火のついた「自由」への希求は、生命を賭しても何度でも立ち上がってやむことがない。18世紀と19世紀のヨーロッパの歴史は、まさしく古いヨーロッパの体制と、生命を賭した「自由」への欲求の激しいせめぎ合いの歴史であった。

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